インスタからの転載

『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』神谷亮佑

いい人や悪い人やドラッグや大自然なんかに触れて音楽を発見していくみたいなものかと思いきや、予想を遥かに突き抜けてコンラッドの「闇の奥」的アメリカ旅行でありました。それというのも、友好と自然、人間と憎悪と闇に触れて、日本の闇とそれが地続きであることを知り、仕事もできなくなり廃人寸前の監督を映すシーンが一番笑えるっていう見事な青春映画的なシーンが撮れてしまったからだと思います。あそこは泣けました。

そもそも国や国籍の違いなんて、大したものではないということと同時に、あるいは逆説的に、人種や土地の歴史と差別の歴史が否定しようもなく目前にあるということとのまっとうな矛盾にぶつかりぶつかって砕けないところにぐっとこないわけにはいかず。

血でできた泥沼の中をもがいて、血の上に立っていることを自覚して生きねばならないこと。彼らの抵抗の武器が音楽であるということ。その音楽が、シャウトでだけでなく、搾り出したことばであること。あるいは、ことばにできなさ、ならなさをシャウトした上で、なお、ことばを探り当てることを諦めないこと。

これらの事実を見せられて、名前くらいしか知らなかったこの人たちを大好きになったし、感動に震えました。つまり優れたドキュメンタリーでもあったわけです。

 

「今日、横にいるひととか、後ろにいるひととかのことを知らないかもしれないけど、同じ空間で音楽の 下にいるっていうのは、いろんな政治家がやろうとしても出来なかったことで、音楽が持ってる力だと思ってて…… これがオレらの政治なんで。どういう方法でもいいんで反応して下さい。あなたの声を聞かせて下さい。GEZAN」

 

そのとおり、政治とはそういうものであるはずです。「葛藤する部族」としての地球の美しき地獄めぐり=ツーリズム。 「この線路を降りたらすべての時間が魔法みたいに見えるか?」の痛切さを思い出しつつ。

 

※1 同時期に見たせいか、『天気の子』がディストピアを肯定したことに対して、こちらはユートピアをすら肯定することを躊躇している。比べる意味はないけど、必死さが違いすぎる。

 

※2『捜索者』か『地獄の黙示録』との2本立てがよいと思います。